3、身勝手な思い

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「偶然、ね。「あの人」がお店に来たの」  私の勤め先である書店に、数日前に偶然現れた赤いルージュの「あの人」。  5年前、私から恋人を奪っていった張本人。  もう二度と、会うことなどないと思っていたのに。 「向こうも今更どうこうしてやろうって気はなかったみたいだから、本当に偶然なんだと思う。あの時と店舗も違うしね」 「それで、また嫌味でも言われたってわけ?」 「ううん。何も。お互い気付いてはいたけど、知らないふりしてた。特に話すこと、ないし」  でも、と私は眉を寄せた。 「色々と思い出しちゃって。せっかく忘れてたはずなのにな」 「…そういうこと。珍しくあんたが「飲みに行こう」なんて言うから、何かあったんだとは思ってたけど」  そう言って、聡子は私の背中をポンとさする。
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