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「偶然、ね。「あの人」がお店に来たの」
私の勤め先である書店に、数日前に偶然現れた赤いルージュの「あの人」。
5年前、私から恋人を奪っていった張本人。
もう二度と、会うことなどないと思っていたのに。
「向こうも今更どうこうしてやろうって気はなかったみたいだから、本当に偶然なんだと思う。あの時と店舗も違うしね」
「それで、また嫌味でも言われたってわけ?」
「ううん。何も。お互い気付いてはいたけど、知らないふりしてた。特に話すこと、ないし」
でも、と私は眉を寄せた。
「色々と思い出しちゃって。せっかく忘れてたはずなのにな」
「…そういうこと。珍しくあんたが「飲みに行こう」なんて言うから、何かあったんだとは思ってたけど」
そう言って、聡子は私の背中をポンとさする。
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