1、忘れえぬ面影

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 それから10年。  二人が会う時は、必ずと言って良いほどこのカフェで待ち合わせをしている。  いつも窓辺のソファ席。  聡子は甘いカフェラテ。私はミルクティー。それがお決まりのメニュー。  窓の外に広がる景色には、当時の面影を見出せない。  ずいぶんと開発が進み、大きなビルが乱立している。  このカフェの中だけ、時間が進んでいないと錯覚してしまうほどに、店内は当時と変わらない。 「ま、無理に恋するものでもないしね。誰かいい人出来たら教えなさいよー」 「もちろん」  朗らかに笑い合うと、学生時代から変わらない穏やかな空気が流れ出す。 「それはそうと、今度のライブ休み取れそう?」  私、バッチリ有給取ったよ、と聡子が手帳を取り出す。  聡子と語り合う時間が、私の心に再び陰を落とした彼の姿を、少しずつ溶かしていく。
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