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彼が少しでも、私を捨てたことを悔やんでくれるといい。
一方的に捨てられた私の中では、まだ終わっていないのだから。
彼が心を痛め、私に対して申し訳ないという気持ちがあるのなら、やっと私から「さよなら」を告げることが出来るような気がする。
彼の未練を断ち切り、私にされたように「さよなら」を告げてやりたい。
そんな、薄ら暗い考えが脳裏を過る。
だって仕方ないじゃないの──。
彼の理不尽な理屈を、ただのひとつたりとも受け入れられるはずがない。
でも彼の心はもう、私にはなかった。
せめて見苦しくないよう、理解したフリして「わかった」とひとこと。
それが精一杯だった。
本当はもっと彼を問い詰めたかったし、引き止めもしたかった。
それが無駄なことと分かったのは、あの人が現れたから。
私とは正反対の、派手な女。
勝ち誇ったように、赤いルージュの唇が毒の言葉を吐いた。
そしてその毒は、いまだに私を蝕み続けている。
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