ここから、これから

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『…今度は、絶対手を離すなよ』 「…っ…ん。 わか…た」 温かな、沁みるような真広の声にーー杏樹の胸が詰まる。 『あー、…それでね』 「あっ、うん、真広の話って…」 『ああ。 …あれ、俺に決まったんだ』 「え」 ズンと、杏樹の腰のあたりが重くなる気がした。 『所長が言ってたろ? 来年、新しく立ち上げる支店。 俺、支店長様になったから』 「は…っ?」 セリザワ探偵事務所が事業拡大するーー確かに、会社で聞いた。 でも、まさか真広が…? だって、新しい支店は…飛行機の距離だ。 「嘘…いつ? いつ決まったの」 杏樹は携帯を落とさないように震える手でギュッと握った。 『昨日』 ーー昨日? 仕事納めの日ーー 「…いつから、行くの…?」 声まで震える杏樹。 お正月明けからすぐ立ち上げ準備は始動すると聞いていた。 電話の向こうの真広が優しく微笑んでいるのがわかった。 『…もう、空港にいる』 「…っ… すぐ、行く… 見送りに…行く!」 『いいって。間に合わないし』 「…真広っ…」 電話の向こうで真広が優しく笑っている。 『…2年、戻らない』 「…っ」 『だから、絶対、…幸せになってろよ』 とうとう泣き出した杏樹は、立っていられなくてしゃがみ込みそうになる。 会話が聞こえていたのだろう、翔太が杏樹をギュッと支えながら言った。 「杏樹、代わって…」 杏樹は携帯を翔太に渡した。
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