大正十一年 晩冬

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どこまでいっても、兄は僕とはちがう。 間違いないだろう。 兄と彼女は契っていない。 ため息が出る。 それは、僕にとって幸なのか不幸なのか。 決めてしまっては後戻りできないだろう。 だから僕はいつもの風をよそおって、いつもの義弟の顔をして、義姉の名を呼ぶ。 僕よりいくつばかりか年若い彼女に微笑みかける。 すみません、つい。 もう、と言って彼女は僕のそばを離れ、火照った頬を冷やすように雪を仰いだ。 彼女の薄紅色の頬は、白い庭にぽつんと咲いた梅の花のようだった。 沫雪のこのころ継ぎてかく降らば  梅の初花散らか過ぎなむ 彼女は振り返り、首をかしげる。 何かおっしゃった? いいえ、何もと僕は答える。 おかしな人、と彼女は淡く微笑む。 あなたは美しい梅の花です。 僕のつぶやきは彼女の耳には届かない。 そのまえに雪と一緒に落ちてしまう。 それくらいがちょうどいい。 そう思って、僕も彼女と同じ雪を仰いだ。
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