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黒い竜と白い竜
とある村の外れにある豊かな山には、黒い竜が住み着いていた。
真っ黒い翼と緑色の眼、それに鋭い牙と硬い鱗を持った、大きな竜だった。その翼は巨大で分厚く、竜が現れたときには空が翼に覆われて、まるで急に夜が訪れたかのように辺りは暗闇に包まれたという。
その黒い竜はずっと昔のある日に突然、この村にやってきて、村人たちにこう言った。
『この山はたった今から我が棲み処となった。なんびとたりとも立ち入ることは許さぬ。心せよ』
村人たちは黒い竜の言葉に頭を悩ませた。
村のある土地は貧しく、作物が育ちにくいため、とても村人たちの生活に足るほどの作物を得ることはできなかった。そのため、狩りによって得ていた獣の肉や毛皮、山の木々を刈ってつくる木材が、村の大きな収入源であり、生活を支えていたのだった。
「それでは私たちが飢えてしまう。どうかこの山は譲ってほしい」
村長が懇願すると、黒い竜は地面を轟かすような声でひとつ吠えて、大きな口から火を吹いた。その火は家をこそ燃やさなかったが、草の繁っていた空き地はたちまち灰の積もった裸の地面と化した。
『ならぬ。この山はもはや我が手中にある。立ち入ろうものならば、我が炎が貴様らを焼き尽くすだろう』
村人たちは恐れおののいて、黒い竜に平伏した。黒い竜はまたひとつ吠えると、山の奥地へと飛び去っていったという。
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