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哀れな男
助手席のドアが開き
色の無い世界から白桃の君が顔を出す
そんな妄想も
車内に満ちゆく寒気にひび割れる
実際問題 顔を出すのは
せいぜい真っ黒い制服の店員で
買い物もせずに駐車場を占拠している馬鹿に対して
勇気と意志をもって注意に現れるのだ
それでも
僕は君を待つだろう
まだ数少ない想い出の
一緒に肉まんをほおばったコンビニで
約束もなく君を待つだろう
ほんの僅かな時間のために
自信もなく君を待つだろう
その日のすべての時間をかけて
18時 辺りは闇に落ち
降る雪が赤い車に積もりゆく
イチゴにかかるコンデンスミルクのような
甘い喩えと裏腹に
冷たい果実の中 よこしまな男の吐息は凍りつく
自己満足 ストーカー? ご苦労さま
言わずもがなの言葉達
それでも
僕は君を待つだろう
あと1時間
針の穴のような可能性
宝くじのようなパーセント
仕事帰り 夢を見られる唯一のゴールデンタイム
妄想は妄想 そんなことは重々承知だ
ただ一筋の 自分勝手な光明が頼りだ
今日は14日
辛い辛い、13日の金曜日に
「1」を足した金色だから
10日ほど早い聖なる夜を
哀れな男の 女神頼み
そして
助手席のドアが開く
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