百六十四日後

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「ようおっちゃん。今日こそはにらめっこでおっちゃんに勝ってやるぞ。最近負けっぱなしだけど、今日はオイラ自信あるんだ。なんたって新たな変顔を開発したから、な」  おっちゃんは部屋の隅で膝を抱え小さくなっていた。 「どうしたんだよ。そんな隅っこにいて」 「……朝、“お迎え”があったんだ」 「お迎え? 今日は随分と早いんだな。で、もう用は済んだのか?」 「俺じゃねえ……俺の、向かいの……」  おっちゃんは耳を塞ぎ、ボソボソと呟き続ける。 「大勢の靴音……まだ、耳にこびりついてやがる……コツコツ、コツコツ、コツコツ……」 「おいおっちゃん? どうしたんだよ」 「来るな……あっち行け……俺を地獄に連れてくなぁぁ」 「なあ、おっちゃん。おっちゃんてば!」  オイラの声にハッとして我に返るおっちゃん。 「……すまねぇ。今日はお前の相手はできねぇ……」 「……そっか。じゃ、また明日な」  あんな怯えた顔したおっちゃん、初めて見た。一体何があったんだ?  気にはなるけど、オイラが心配してもしょうがない。オイラがおっちゃんにしてやれんのは、イヤなこともツラいことも忘れるくらい遊んで、遊んで、遊びまくって、気をまぎらわしてやることだけだ。
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