1. シシリー

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1. シシリー

フローリストの朝は早い。 まだ薄暗く、ひとりとふたりと、数える程しか人のいない駅前広場。 白いワンボックスが路肩に駐車し、エンジンを切った。 バクン。 リアゲートのロックが外れる音。運転席から一人の若い女性が降りてくる。 動きやすそうなGパンとTシャツ姿。 首には白いタオルをかけていた。 ドアを閉めた彼女は、いったん立ち止まって商店の立ち並ぶ歩道の方を見た。 まだ開いていない一軒の店、まだ開いていない店のシャッター。 英語でつづられた、フローリスト「シシリー」の看板。 彼女は元気に挨拶をした。 「おはようございます!」 車には、生花市場で仕入れを終えたばかりの 今日の花たちが、こんもりと積まれている。 これから店をあけ、この子たちを美しく、見栄え良く飾らなくてはいけない。 「おっと」 彼女は再び運転席のドアを開くと、助手席に置いていた、一冊の大型本に手を伸ばした。 「The Flower Fairies」 表紙にはその文字と、色鮮やかな子供の妖精の姿が絵描かれていた。 彼女は本を脇の下に挟むと、鼻歌を歌いながら、自分の店へと歩いていった。 「店長ー、このラナンキュラスたち、外でいいですかー?」     
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