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「うほん。だもんで、しばらく留守番を頼みたいんじゃ」
「ええ~~~」
「もちろん、ただでとは言わん。ほおれ」
ひげもじゃ神様は、こおにのまあるい鼻先にお供え物の大福をぶらさげました。大福はいかにもうまそうな匂いがします。真っ白で、もっちりしっとり柔らかそうで。
手を伸ばしたこおにの前で、大福を引っ込めたひげもじゃ神様はにんまり。
「今年は稲もすくすく育っとるからのぉ。み~んな、うまい供え物を持ってきてくれるわい。キクさんの甘辛せんべいも、ヤスコさんのよもぎ餅も、ダイゴさんの奥さんのごまだんごも、今年は気合いが入っとる。もしも留守番をやってくれるなら、留守の間の供え物をみ~んなやろうかのぉ」
ひげもじゃ神様は穀物の神様です。神社の名前も漢字の『米』をくずした『八十八神社』と言い、豊作を願う農家の人々が手作りのお供え物をしに来るのです。
ごくりと唾を飲み込んで、こおには叫びました。
「やる! おいらやる!」
「ほうか、やってくれるか」
大福をひったくるように頬張ったこおには、口に広がる甘味にうっとりしました。
「この大福の粒あんのホクホク加減。これは、トメばあさんの大福だぁ」
こおにを見ながらしたり顔のひげもじゃ神様は、お気に入りの唐草模様の大風呂敷をきゅっと結び直して「それじゃ、よろしくの」と、トメばあさんの粒あん以上にホクホクしながら出かけて行ったのでした。
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