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大好きな葵くんの声を聞いただけで、さっきまで渦巻いていた愚かな考えはパッと霧散した。きっと葵くんと会えない時間の寂しさを少しでも紛らわそうと、頭が捏ねくりだしたタチの悪い妄想だったのだとちょっぴり安心する。
『帰り道の花屋さんでかえでみたいに可愛い花を買ったんだ。かえでにあげたいと思って』
僕は小さな頃から華道を嗜んでいた祖母の影響で花が好きだ。
色とりどりの花たちの美しさや可愛らしさは、いくらだって見飽きない。
そのことを葵くんは熟知していて、よくお花をプレゼントしてくれる。
でもただ綺麗なものをプレゼントするだけでなく、いつも『かえでに似合いそうだった』とか『かえでらしいから』という枕詞が付いてくる。
今回は『らしい』の方みたいだ。
僕のような平凡な男子高校生と可憐な花の何処に共通項があるかは分からないけど、葵くんが僕のことを本当に好きなんだと実感できて、顔に熱が集まるのを感じた。
『今からお家に行っても良いかな?』
「あ、ありがとうございます!」
思わず敬語になってしまった僕を葵くんがクスクスと笑った。
『なんで敬語なの?……本当に可愛いね、かえで』
その声はすごく蕩けてしまいそうなほど甘い。少なくとも、電話越しの声だけで僕はもう腰砕けになってしまった。
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