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葵くんと居られない時間はとても長く感じる。退屈な授業中ならなおさら。
僕は席が一番後ろなのを良いことに、こそこそとスマホを弄っていた。
葵くんと一緒に居られない寂しさを紛らわすため、フォルダの中にたんまりと撮り貯めた葵くんの写真達をスクロールする。
どの葵くんも思わず感嘆の溜息が出るほど美しい。
何度も見返したって新しい発見があって堪らない。
ほら、この鎖骨とかすごくエッチだし、睫毛なんて爪楊枝が乗せられそうなくらい長い……。
ピタリと画面をスクロールする手を止めた。
そこに映る葵くんはアイスクリームを食べている時のものだ。
その写真の一点、ちらりと覗く紅い舌に昨日の夜を思い出す。
葵くんが僕のアナルを舐めて慈しんでくれた、昨晩の興奮がぶわりと体中に伝播した。
仮にも授業中にこんな卑猥なことを思い出してしまったという羞恥を掻き消すため、アルバムを閉じて、検索画面を開く。
何か気分を変えてくれるものを検索しよう。
そう思って、でもこんな記憶を打ち消してくれるものなんてあるかなと考える。
指を画面の上で右往左往させて、無意識に打ち込んだのは『宮雨葵』だった。
何やってるんだろう僕。
頭の隅々僕は葵くんで一杯なんだ。
折角だから、検索結果に目を通す。勿論葵くんのことが書かれている訳じゃないのは分かりきっているんだけど。
あっ!葵くんと同姓同名の人が居るんだ。『宮雨』ってあんまり聞き馴染みのない苗字なのに下の名前まで一緒なんて中々無いと思う。
なになに、『宮雨葵さん(32)が自宅で死亡しているのを不法侵入した男性が発見した。』
まさかの殺人事件の被害者なのかな葵さん。病死とかならこんなネットの記事にはなっていないと思うし。
葵くんと同じ名前の人がそんなことに巻き込まれたというのは気分が良い物ではない。
というか不法侵入した家で人が死んでいたなんてこの男性にはちょっと同情だ。犯罪がいけないことだとは思うけど。
もしかしたら、神様が天罰を与えたのかもしれないな。それか通報したようだから、更正の機会か。
暢気なことを考えていた僕は、次の一文で凍り付いた。
『発見当時、宮雨さんプラスチック製の衣装ケースに収まった状態で、蓋はガムテープで固定されていた――』
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