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 佳史は子どものように甘えてくる牧瀬に、思わず腕を伸ばした。そっとその背中を包み込むように抱きしめ、顔を牧瀬の胸に埋める。牧瀬の匂いだな、と思うとなんだか安心する。自分のところに戻ってきたことが、嬉しいと素直に思え、ぎゅっと腕に力を込めた。 「課長から初めて抱きしめてもらえた、かも」 「え? そんなことないだろ」 「こんなちゃんと、恋人みたいなハグをされたのは初めてです」  恋人、と言われ、佳史は慌てて牧瀬から離れた。そんなつもりはなかった。ただ……牧瀬が弱っていたから、それになんだか嬉しかったから……そんなふうに思って自然と体が動いた。 「そ、そんなつもりじゃない」 「そう言うと思いました」  牧瀬は佳史の目を見つめ、少しだけ微笑むと、そっと唇を合わせた。優しく、丁寧なキスは随分長く感じたが、ひとつも嫌な気分はしなかった。すっかり牧瀬とのキスに慣れてしまったのかとも思うが、そういえば初めから嫌だと感じたことはなかったと思い返す。  それどころか、今は体が熱くなる。 「牧瀬、もう……」 「もう、何? 止めて欲しい? もっと違うことして欲しい? どっちですか?」  少しだけ唇を離して、囁くように問う。佳史は何も言えなくて俯いた。  言えない。中心が疼くから止めて欲しいなんて、言えない。     
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