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営業三課の牧瀬臨は、天が二物も三物も与えたような奴だ。誰もが認めるアイドル風のイケメン、柔らかな優しい物腰、長身、痩身、長いのは手足だけじゃなく指も長く、スーツも申し分なく似合う。更に頭の回転も早く、愛想もいいので営業成績はかなりいい。そんな彼に女子社員たちが憧れを持って付けたあだ名は『ラッキー製菓の王子様』。
そんな完璧ともいえる部下を持った青野佳史は、営業三課の課長として鼻が高かった。しかも人懐こく、自分を尊敬しているなんていう牧瀬を、佳史が可愛がらないわけがなく、仕事はもちろん、プライベートでも牧瀬を連れて歩いていた。歳の離れた友人というのも悪くない――佳史はそう思っていた。
半年前のその日も、牧瀬の運転でスノーボードに行った帰りだった。
「課長、実はボード上手いんですね」
高速道路に乗ってすぐに、牧瀬がそんなことを言う。それに対し、助手席で煙草に火を点けていた佳史は、ばーか、と口を開く。
「俺が学生の時、流行っててモテたいがために練習したんだよ」
「へえ……おれ、初めてだったから、すげーなって思って」
「その割にムカつくくらい滑れてたけどな」
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