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 どうせおっさんですよ、とコーヒーをかき混ぜていたプラスチック製のマドラーを齧る。最近はどこもかしこも禁煙で、喫煙者である佳史には少し厳しい。マドラーが煙草代わりになるはずはないのだが、何か咥えていると少し落ち着くから不思議だ。 「課長、次のアポまであと十分です。行きましょう」  コーヒーを空にした牧瀬がそう言って立ち上がる。佳史も仕方ないとばかりに立ち上がり空のカップを手に取った。それをゴミ箱に捨て、咥えていたマドラーも捨てようとした、その時だった。それを咄嗟に止めたのは牧瀬だった。 「それは捨てないでください」  佳史の手からマドラーを取った牧瀬は、それを大事そうにスーツの内ポケットに仕舞い込んだ。 「おい……そんなもの何に使うんだ?」  マドラーが欲しいというわけでもないだろうに、牧瀬の行動が分からなくて聞くと、牧瀬はとびきりいい笑顔を向けて、口を開いた。 「こんなパブリックな場所じゃ言えないことです」  さあ行きましょう、と佳史の先を行く背中を見つめ、佳史は小さく、何? と呟いて怪訝な表情になった。 「おい、牧瀬! そんなもん捨てろよ」 「嫌です。ほら、課長、もう行かないと」  遅刻厳禁ですよ、と言われ、佳史は仕方なく歩き出す。 「ホントにそれ、どうするんだよ?」 「どうもしませんよ。もったいないから貰っただけです」     
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