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原田に手を振って歩き出した佳史に原田が、飯? と聞く。
「ああ。牧瀬と昼」
「それはいつもだろ」
「そんないつも一緒じゃねーよ」
ばーか、と残して佳史は喫煙室を出た。
いつも一緒だろ、という原田の呟きは佳史には届くことはなく、佳史は通用口へと向かう。人影が見え、課長、と呼ぶ声がした。
「おう、待ったか?」
「いえ。何食います?」
「うーん……蕎麦な気分なんだけど、牧瀬は?」
「おれも蕎麦がいいなって思ってて。行きましょう」
蕎麦なら辰巳屋ですかねー、なんて言いながら牧瀬が歩き出す。佳史もそれに続いた。牧瀬といると楽だ。面倒なことを被ってくれるし、趣味も合うし、食事の嗜好も似ている。だからきっと自分は牧瀬といるのだと思う。
これは、牧瀬には悪いが、恋愛感情ではないだろう。
「あ、牧瀬、今日の夜予定あるか? 実家からいい酒送ってもらったんだよ」
お前にも飲ませてやる、と佳史が言うと、牧瀬は一瞬こちらを見て、でも再び真っ直ぐ前を向いて、すみません、と口を開いた。
「お前最近、うちに来なくなったな」
「課長んちはもう行けません」
「狭くて汚いからか? 牧瀬んちだって似たようなもんだろ」
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