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 初めてだと言うから、丁寧に教えてやろうと思ったのに、すぐにマスターしてしまった。とにかく物覚えがよくて、それに運動神経がついてきてしまうから腹立たしい。 「課長追うのに精一杯だったんですよ。教え方もよかったし」  牧瀬が一瞬だけこちらに視線をくれて、微笑む。 「そ、そうか? まあ、今度は女でも連れて来いよ。あれだけ滑れればモテるぞ」  うっはうはだぞ、と佳史が笑うと、牧瀬は、別に、と口を開いた。 「おれはモテなくていいから」 「これ以上は、ってか? この間も可愛い女子社員に囲まれてたもんな、お前。おっさんとは違うってか?」 「課長だってモテてたって聞きましたよ」 「まあな。逃げられたとはいえ、俺だって嫁もいたしな」 「確か、派手に三行半叩きつけられたんですよね」  牧瀬の言葉に佳史はわざとらしく、うっ、と呻いてみせた。  確かにあれは見事な振られっぷりだったと自分でも思う。まだ結婚して半年だったというのに、ほぼ毎日深夜まで残業して、その後同僚や友達と呑んで、朝日が出る頃帰宅して、三時間もすればまた会社――妻に構ってやる時間なんか、ほとんどなかった。そんな生活に嫌気が差したのだろう。妻は突然会社まで来て、緑色の紙を机に叩きつけていった。  それからもちろん何度も謝ったし、関係の修復を図ってみたが、妻には響かず、結局別れた。 「ありゃあな……全部俺が悪いんだよ」     
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