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 昔の傷を思い出した佳史はため息を吐きながら携帯灰皿に煙草を押し付けて消す。窓を少しだけ開けると、涼しい空気が流れ込んできた。 「ま、お前も俺とばっかり遊んでないで彼女作って大事にして、ラブでスイートな日々を過ごせよ」  お前ならすぐだろ、と佳史が笑うと、牧瀬は、そうでしょうか、と小さく笑った。 「そう簡単ではないと思うんです。おれが好きな人は、誰にでも優しくて明るくてみんなの憧れなんできっとライバルも多いし」 「ほお? 牧瀬、好きな子なんかいたんだ。誰だ? 巨乳美人で有名な総務の由梨ちゃんかな? 企画の水原さんもいい脚してるしな。大穴で営二の真紀ちゃん! 牧瀬真紀にしてやるよ、なーんつって!」  げらげらと笑い出した佳史に、牧瀬はが大きなため息を吐く。そして静かに口を開いた。 「美人ですよ、巨乳ではないですけど。脚も長くてキレイです。真紀さんみたいに愛想もいい、というか良すぎて正直むかつきます。誰にも比べられないくらい魅力的な人です」 「ベタ惚れだな。で? 誰?」 「青野課長です」  その言葉は佳史の耳を確実に通り抜けたが、意味が分からなかった。自分の名だとは理解したが、今は牧瀬の好きな子の話をしている。聞き違いかと、佳史が首を傾げる。 「課長が好きなんです。抱きたいって意味で」     
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