追憶

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追憶

 戦記もののノンフィクションをー  そう請われてもう二週間になる。  まだ一筆も手に付いていない。  別に取材に出ていたわけでもなければプロットを練っていたわけでもない。  ただ単にネタに困っていた。  いよいよ三週間目に手を掛けた今日に至っても、ひたすら検索エンジンに単語を放り込み続ける状態で足踏みしている。探れば自分より優れた考察も知見も山と転がっていたし、いっそのことこれらを丸々いただいて一文でっち上げることも考えたが、腐ってはいても、それなりにまだ矜持はあった。  そもそも何故戦記ものなのか。  その理由はただひとつ、先の大陸戦争が幕を綴じてから60年と言う節目が今年であることに絞られていた。機密保持期限が切れ、公開された資料も増えている。そう言うものに着目して新たな解釈を付け加えることも考えていたが、それには裏付けとなる膨大な知識や傍証が必要であったし、何よりそんなことは誰しもが試みていた。  ふと卓上のカレンダーに目をやる。締め切りまであと四日となかった。  どうしたものか…  残されたロウソクの火が三日になろうかと言うころ、私はまだ膨大なリンク先をひたすら辿り続けていた。画面をスワイプする指の動きも緩慢になり、案の定要らぬページを開いてしまう。  閉じようと思ったが、サムネイルよろしく貼られていた女性の写真に目を惹かれ、そのまま読み進めてしまう。それは何かの手記を辿ったもので、馴染みのない言語で書かれたメモのような画像もあった。  そして私は結局、夜が白むまでページを繰り続ける。   かつて白薔薇と謳われたパイロットに関する、最初の出会いだった。
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