かまくらの神様

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かまくらの神様

「由香、何を書いてるん?」 「神様にお願いごと」 由香は覚えたてのたどたどしい平仮名で一心不乱に紙に何かを書いていた。 兄の隆はそんな由香を微笑ましく見ていた。 早いものだ。両親が死んでもう1年になる。両親の乗った車がスリップして自損事故を起こして即死だった。突然両親を失った兄妹は母方の祖父母に引き取られた。かまくらの中で、兄妹は楽しい時間を過ごしていた。 兄は由香が懸命に書いている文字を読んで胸が痛んだ。 「おとうさんとおかあさんがかえってきますように」 「由香、水神様だからそれは無理だ」 「神様は子供の言うことは聞いてくれるもん」 そう言って聞かなかった。隆はそれ以上何も言えない。 「ほら、お兄ちゃん」 指差す先の新雪に4つの足跡だけがサクサクとかまくらに近づいてきた。 「お父さんお母さん!」 その足跡はやけに小さい。しかも裸足である。隆は叫んだ。 「来るな!」
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