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頭痛がひどいので、学校帰りにドラッグストアに寄った。眉間にしわを寄せる私に、店員が少しおびえたような目を向けてきた気がするが無視する。痛い、頭が痛い。いつも使っている白いパッケージの鎮痛剤は、用法・容量を守っていたらろくに効かない。1日に3回、1回2錠。それならそれでちゃんと効くようにしてくれと思う。近頃は1日にワンシートは消費している。視界の端にちかちかと瞬く光が現れ、まずい、と思う間もなくそれは私の視界をすべて覆ってしまう。そして真っ白な中、悲鳴をあげたくなるような痛みが頭を襲うのだ。その度に私は薬を次々に口に入れる。それもこれも全部、あの馬鹿男のせいなのだ。
中学生の頃は、偏頭痛はあってもこんなに頻繁じゃなかったし、視界が真っ白になることもなかった。高校の入学式で、あの男と目が合った瞬間から、私の頭痛は当然のごとく毎日やってくるようになったのだ。
私は68錠入りの頭痛薬を手に取り、ため息を殺して籠に入れた。高校生のお小遣いに、薬代は安いものじゃない。バイトでも始めれば、あの男のことを考える時間もなくなるだろうか。まあ、そんなことを考えている時点で無理だろうな。この頭痛がなくなるのは、私が死ぬかあいつが死ぬかのどちらかの場合だけだろう。
もう一つため息を押し殺し、レジに向かって歩き出した私の視界に、【ピアッサーコーナー】という文字がちらついた。ピアッサー。うちの学校は校則がわりと緩い。ヘアアクセも含めて2つまでならアクセサリーをつけることが許される。私は並んでいるピアッサーの前に歩み寄った。適当にとってみたピアッサーの説明書きには、使い捨ての1回分、つまり片耳ずつしかあけられないと表示されている。誕生石つきのファーストピアスが内蔵されていて、カシャンとやればそれが勝手にはまるという仕組みのようだった。私はそれを棚に戻して腕組みをする。
「ふうん」
私は1人でつぶやいた。あの男の誕生日がいつなのか、私は知らない。おそらく、冬だと思う。その方が似合うから。私が誕生日を訊いても、あの男は不審がるだけで教えないだろうし、私の方でもわざわざ訊くつもりもなかった。ただ、あの男には白の石が似合うと思った。6月の誕生石、ホワイトムーンストーンを手に取り、籠に入れた。今度こそレジに向かう私の足取りは軽く、頭痛は少し、和らいでいる気がした。
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