押し売り

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にしても、若いとは思ったがまだ二十歳か。こっちからすれば十代と大差ない。 しかもサイフもスマホも持ってないだと? ふざけやがって。 「うわっ! ちょっと、何するんですか!?」 准は彼の腕を押さえて、なるべく丁寧にジャケットを脱がせて奪い取った。 「何なんですか! 相手の見境なくなるほど欲求たまってるんですか!」 「違う!!」 またも良くない勘違いをされてしまったけど、彼自身に何かしようとは思ってない。目的は別にあった。 確かに、スマホも財布もない……。 ジャケットのポケットを探って、持ち物を確かめる。ズボンのポケットにも入ってなさそうだし、本当に何も持ってないらしい。彼の言うことは嘘じゃないようだ。 でも、成果はあった。 「名前は、……嘘じゃないみたいだな?」 ジャケットの内ポケットから名刺が数枚出てきた。全て同じ人間のもので、涼成哉と記されている。何となく聞いたことのある会社名だったが、職種までは分からなかった。 涼は名刺を持ってることを忘れていたと話す。そして何故か落ち込んだ様子で謝ってきた。 「これ一枚もらっていいか」 「あ、どうぞ」 別に自分の名刺は渡さなくていいだろう。どう考えても名刺以上の情報が知られ、身バレしている。 「そういえばお前、昨日は帰る家がないって言ってなかった?」 彼は頷く。「何で」と訊くと少し困った顔をして、歯切れ悪く答えた。 「……同居人に追い出されちゃって。とても帰れる状態じゃ……」 落ち込んでるように見えたが、それより不安が強い印象だった。喧嘩でもしたんだろうか。 「そうなんだ。じゃあ実家に帰ったら?」 「実家とかもなくって……」 うっ、と准は目を逸らす。思いのほか彼の事情は重いようだ。 一回黙ってしまうと思考まで停止する。仕方ないので、一休みにコーヒーを淹れた。……二人分。 「まぁ、飲めよ」 「ありがとうございます「」 彼にカップを渡して、准は自分のカップを見つめた。 少し気まずい。何て声を掛けるべきか悩む。 なぜ家を追い出されたのか。今日泊まる場所はあるのか。 いや、違う。もっと大事なことがある。 「お前は、何で俺に会いに来たの?」 「それは、人肌恋しい貴方の声が聞こえたからです。恋人できないなら死んだ方がマシだって声が」 やめろ。そこまで言った覚えはない。
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