押し売り

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「そろそろ警察呼ぶかな」 「警っ……!? すみません、調子乗りました! 俺ごときが准さんの身体を好き勝手できるなんて夢にも思ってません。代わりに俺の身体はどうぞ、貴方の気が済むまで痛めつけてください!」 またまた、涼は准を困らせることを言う。 「いやだっつーの。俺は人を痛めつける趣味はない」 「俺はあります! と言っても、好きなのは痛めつけられること……ですがね」 「警察呼ぶわ」 「待って待って! 冗談です、そんな趣味は神に誓って持ってません! 何でもするんで警察だけは勘弁してください!」 涼は段々憐れに思えるほど頭を下げて謝ってきた。最終的には頭が床につき、土下座へチェンジした。 「だって帰る家もないのに、前科までついたらどこへ行けばいいのかっ……あ、刑務所? ……は絶対いやです! 俺なんかが入ったら苛められるに決まってる! 憂さ晴らしの格好の的ですよ!」 一体何を言ってんだか。 「ふっ……」 ほんとうるさい奴。 涼の忙しない一挙一動に、気付けば准は笑っていた。最近ストレスがたまってるせいか、彼を脅して苛めるのが楽しくなってきてる。自分の性格の悪さに、また笑えた。 「おっ、いいこと思いついた。今何でもするって言ったよな?」 「はい! 何でも……する気で何かします!」 「よし、じゃあ腹減ったから朝飯作って」 「え、ご飯ですか」 我ながら馬鹿げた注文だと思う。案の定、涼も目を丸くして驚いていた。 「食材は好きに使っていいからな。よろしく」 何故自分を知ってるのか、という疑問には触れずに。准は涼というひとりの人間に対して興味が湧いていた。心を許す気は毛頭ないが、もう最初ほどの混乱もない。 自分がおかしいのか、彼がおかしいのか。 多分、両方だろう。 悪いときに悪いものに当たってしまった。ほとんど毒だ。彼がどんな目的で自分に会いに来たのか分からないが、今は彼を好きに泳がせよう。 何があろうと目を離すことはしない。涼という人間を観察してやる。 でも、それにしたって変だ。どちらかというと他人に無関心なことが多いのに、涼のことは気になる。 多分勘違いだと思う。 独りがしんどい時に転がり込んできたから、そう。 俺はきっと、話し相手がほしいだけだ。
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