押し売り

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それから一時間近く経ったころ、涼は高らかに准の名前を呼んだ。 「はい、お待たせしました!」 「ほんとに作れんだな……」 驚くことに、食卓には純和風の料理が所狭しに並べられていた。涼はとても手際がよく、普段から頻繁に料理をしているように見えた。 もちろん変なものを入れられたら困るので、ほぼべったり近くで見張っていたわけだけど。 「いただきまーす」 「お口に合いますか?」 「合う。怖……」 不覚……なんてこった。本当に美味い。 家で誰かに手料理を作ってもらったのも久しぶりだ。懐かしく感じてさらにご飯をかきこんでしまう。正直、これなら毎日でも作ってほしいぐらい……。 「って、突っ立ってないでお前も食えよ」 見ると、涼は離れた場所で佇んでいた。 「俺は大丈夫ですよ」 「何で? お前が作ったんだから一緒に食おうよ。皿も客用のあるし」 「でも……」 涼はあくまで遠慮していたが、焦れったく感じた准は無理やり席に座らせ、彼の口に玉子焼きを詰め込んだ。 「ほら、一緒に食うと美味いだろ」 「ふぁい……」 しかし一口で食べさせようとしたのは可哀想だった。彼は食べ物を詰め込んだリスみたいに頬を膨らませてる。 笑ってる顔は子どもみたいで可愛い。……が、それはさておき。名前以外何も知らない人間と自宅で朝飯を食べる謎の光景が生まれてる。 まるで家族みたいだ。強いて例えるなら弟か。 「お前、兄弟いる?」 「俺ですか? いませんよ」 「じゃ、俺と一緒だな。遊ぶのは友達ぐらいか」 「そうですね! 俺友達いませんが」 「そうなんだ……」 何故なのかは訊かないでおこう。人は誰しも触れてほしくない話題があるんだ。 それが、自分にとって同性愛の話だ。 その後は、食事することに集中した空腹だったのもそうだし、涼の料理は美味しくてすぐに完食してしまった。 「ごちそうさまでした。で、話戻るけど……お前はこれからどうすんの?」 准は箸を置いて彼と目を合わせる。食事が終わった後なら、遠慮なくそっちの話ができるから。なんだかんだダラダラしてたらもう九時半だった。 「とりあえず財布を探します。スマホも探さないとだけど。本当ついてないっていうか、やんなっちゃいますね。あはは」 「笑ってる場合か。警察行くぞ」 「警察だけは無理です! 許してください!」 「じゃなくて、遺失の届け出しなきゃだろ! もしかしたら誰かが拾ってくれてるかもしれないし」
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