深夜の来訪者

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深夜の来訪者

木間塚准(きまづかじゅん)、二十七歳。 金融会社の総務として五年、都内のマンションで一人暮らしをしている。趣味はドライブ、トレッキング、釣りに芸術鑑賞。 そして独身。恋人いない歴=年齢。 「ちょっと待て!それは別に書かなくてもいいだろ!」 喉かな昼下がり、喫茶店の一角で悲痛な叫びが響いた。 「おいおい、そんな騒ぐなって。まわりに迷惑だろ」 「いやっ……、だってお前が余計なことを書くから……」 しどろもどろに返す黒髪の青年、准を見て、対面に座る青年は笑いを堪えていた。 准は今、自身のスマホを取り上げられている。そしてその画面にはあるサイトのアカウントが表示されており、先ほどの准の簡単な紹介文が記入してあった。 「ふっ、これ素直に書きすぎじゃないか。 まぁこれまでの恋愛経験も重要な記載事項なのかな。でも俺のカンで言わせてもらうなら苦笑されて終わりだぞ、このプロフィール」 「もう、わかったから返せ」 人が真剣に書いてるのに、その反応は純粋に傷つく。無事自分のスマホを取り返して、また画面を見た。そこには間違っても知り合いには見せられない、出合い系サイトのプロフィール欄が映っている。 「俺だっていきなり恋人を作れるなんて思ってないよ。ただ、この歳で恋愛経験がまるでないのがまずいから……まずは友達から~てな具合に楽しく付き合える人がいないかな、って思って登録したんだ」 「だからって何もそんなサイト使わなくても……お前ならいくらでも相手見つけられるだろうに」 呆れ顔でそう言うのは、父方の従兄弟で同じ会社に勤める兼城創(けんじょうはじめ)。彼は准より一つ歳下だが、弟というよりも親友のような関係だ。 ただ彼は仕事も完璧、プライベートも完璧という点で、自分よりいくらか人生を楽しんでると准は内心舌を出していた。実は創は、以前から付き合っていた女性と婚約したのだ。しかも、つい先日。直近過ぎて未だ動悸がする。 「ふふ、まぁ准の場合、恋人つくんのが難しいのはしょうがないよなあ。付き合いたいのは可愛い女の子じゃなくて、同じオトコだもんな」 「だっ、だから声に出すなって!」 またしてもとんでもない事を公共の場でからかわれたが、准は言い返せない。創の言うとおり、自分は普通とは言い難い存在だという自覚があった。 准は異性に興味を持てない、同性愛者だ。 これは創にしか話してない。家族にも隠してきた最大の秘密だった。
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