深夜の来訪者

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「と、まぁ……。冗談はさておき、そんなサイト使うなよ、准。高学歴高収入目当ての女が食いつくだけで、男と知り合えるわけないだろ? 独身ったって余計なトラブルに巻き込まれたら面倒だぞ」 准は相談というより報告をするだけのつもりだったが、創はサイトの利用を強い口調で止めた。切れ長の目を更に細め、頬杖をつく。 「望まない未来が来ても案外順応できるもんだ。俺も昔は結婚なんか絶対しないと思ってたけど、今はホラ。無難な人生をまっしぐら」 「……創は、それでも幸せになれるって」 俺達は祖父が創設者のおかげで、何不自由なく育った。だが働いてる身としては仕送りこそすれ、親の援助は受けたくない。そう思って一人暮らしを始め、家族から離れた。 自立したかった。自分ひとりの力でやっていけることを証明したい。いくつもある未来のルートを自分で選択したい。 だが創が婚約したことで、親から縁談話をたくさん持ち掛けられるようになった。正直頭の痛い話だ。 もし自分が普通の青年だったなら、今頃家庭を持って、孫の顔を見せてやれたかもしれないのに……そう思うと申し訳ない気持ちになる。しかし、だからといってどうする事もできない。 せめて兄弟がいたら良かった。会社の相続に関しては創がいるし、何も心配はしていないけど、子どもだけは話が別だ。 「……准。おい、准。聴いてる?」 「あ、悪い。何?」 「だから、俺は論外だったわけ」 「え、何が?」 訊き返すと、創はため息をついて「何でもない」と小さく呟いた。 「とにかく! いいか? “そっち”に対する偏見はまだ強いし、絶対的に理解できない奴らもいる。下手したら社会的に殺されるんだから、他の奴に軽々しく自分のこと言うなよ」 「あぁ。悪いな、心配かけて」 創に礼を言いつつ、内心複雑な想いに駆られた。何故なら、恋人がいなくても社会的に死んでいるから。他人の結婚式に出る度に擦り切れる心は、もう恋人を作らにゃ治らない。 恐らく、もうすぐ訪れる創の披露宴がトドメだろう。従兄弟が幸せを掴むことの感動と深い悲しみを同時に味わうのだ。 「お、そろそろ休憩終わるな。……戻ろう、准」 「あぁ」 いつもと同じだ。グラスの氷がとけ始めた頃がお開きの合図。 気がついたら夜になっていてほしいと考えながら店を後にした。
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