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現在の時刻は深夜三時半。終電を逃した後もバーで飲み、タクシーで帰ったからこんな時間になった。不幸中の幸いは、明日が休日ということ。准は腕時計を外し、目の前の青年を見据えた。
「すいません。ちょっと酔ってたみたいなんですけど、もう大丈夫です。実は俺は貴方の恋愛を応援したくて……貴方の恋の神様になりたいと思ってやって来たんです」
「いや……絶対まだ酔ってるよね。何言ってんの……?」
准は再び水を差し出し、冷静に問いかける。
「酔ってません。恋人ができず二十余年、童貞のまま死にたくないという悲痛な叫びが聴こえ、導かれるようにここに来たんです。准さんにお会いして確信しました。貴方の恋愛をお手伝いすること、それこそが今の俺にできる最大の人助けで」
彼はまだ話してる途中だったが、准は手を上げて彼の言葉を遮った。
「あ! 話の途中にごめん。俺急いで電話しなきゃいけない人がいたの思い出したから、ちょっと待ってて」
よーし。じゅうぶん顔も堪能したし、もういいか。
しかしずいぶん失礼なストーカーだった。
淡々と110番通報をしようとしたが、青年は何かを察したのか俊敏な動きで准の背後に回り、スマホを持つ腕を掴んだ。
「ちょっと准さん、落ち着いて。警察は無理です。俺が」
「こら、離せ。つーか警察が無理ってことは、俺のストーカーだって自覚があるんだな?」
思ったことを率直に言うと、彼は真っ赤な顔で否定した。
「ち、違います! そんなことしなくたって貴方のことは知ってますよ。男の恋人がほしいんでしょ?」
「ストーカー! 何で知ってんだよ!?」
准は驚愕して叫んだ。今ので寿命が十年は縮んだ気がする。信じられない。だって、何で。
初対面の人間が、俺の最大の秘密を知ってんだ!?
「初対面の人をストーカー呼ばわりするなんて、知る人ぞ知る大企業の御曹司にあるまじきことですよ、准さん」
「なっ、そんなことまで……どう考えてもストーカーだろ! でなきゃ何でそんな俺のことを知ってんだよ!」
さらに慌てて取り乱す准を置いて、青年は自信満々の笑顔を浮かべた。
「まぁ、それはさておき……大丈夫ですよ、准さん。俺に任せてください。必ず、貴方が恋人をつくれるようにサポートしますから!」
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