押し売り

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押し売り

暗い。 今いる場所が分からない。何も見えない谷底へ真っ逆さまに落ちているようだ。 終わりのない浮遊感が怖い。 でも我慢だ。あの夜のような星が瞬いていたら、今度は眩し過ぎて目を開けてられないだろうから。 ……あの夜? それは一体、いつのことだったか。自問自答のようだけど、自身の記憶に疑問を覚えた。 思い出せない。忘れられない夜だったのに。 誰かといたはずなのに。 今度は高い波に飲まれる。音も光も届かない、深海のような世界へ、ただただ沈んでいった。
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