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ああ……楓の、悲痛な絶叫も、覚えている。
悪いことをした、と思う。
おそらくは血まみれで運び込まれたであろう自分の姿は、無惨な形で両親を失った幼時の記憶を、再び抉る結果となったのではないか。
必死に、大丈夫だと、自分は死にはしないと言おうとしたが、声が出なかった。
それから、そう……楓の、白い肢体――
(……え? ――――っ?!)
平時ならば、飛び起きているところだが、僅かに身じろぎするのが精一杯だった。
脇腹に激痛が走り、思わず呻いた。
楓が、はっと目を覚まし、至近で見つめ合う形となった。
いや――いやいやいや。冷静に考えれば、状況は明らかなことだ。
賊とともに、堀へ落ちた。
水に浸かり、血を失って、体も冷え切っていたことだろう。
そうした時には、人の体温で暖めるのが一番よいのだと、聞いたことはある。
それにしても、嫁入り前の娘が、何ということを。
娘のような気持ちでついそんなことを考えてしまうが、本来、楓の肩揚げを下ろした際に仮祝言くらいはしていてもおかしくはなかった。もしも四年前に他界してしまった久右衛門が存命だったならば、そうなっていた筈だ。
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