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どちらかと言えば小柄な松之輔より一尺余も長身と思しき、まるで海坊主のような大男はやはり、松之輔が獄門台へ送り込んだ一味の一人、船頭をつとめていた男の兄であるらしい。そのようなことを口走りながら突っ込んできた。
あと一人――そう思うことが、油断に繋がったのだろうか。
じんと腕が痺れ、刀が折れ飛んだ。
海坊主が振り回す太い棍棒には、夜目でしかとは見えないが、どうやら金輪がはまっていたらしい。
脇差は、最初に矢を射かけてきた曲者に打ってしまったから、無い。
これはいかんと、背筋が寒くなった。
それでも、刀が折れるほどの打撃を受けて、刀を取り落としていないということは、まだ自分に力が残っているということだ。
そう己を叱咤して、松之輔は折れた刀を握り直した。
脇腹に受けた傷からは、だいぶ出血しているのを感じている。
あまり、時はかけられない。
大振りする棍棒の下を際どくかいくぐって懐へ飛び込み、刃を首に押し当てたが、折れた刀では角度が悪く、うまく急所を掻き切ることが出来なかった。
海坊主は雄叫びを上げ、棍棒を投げ捨てて、力任せにつかみかかってくる。
二人は折り重なるように倒れ、地を転げた。
首を絞められて、目が血走り、視界が赤くなる。組み討ちは、体格の差が物を言うもので、元々あまり得意では無かった。
血みどろになりながら二人は、そのまま堀へと転落した。
相手はおそらく漁師上がりだ。水の中では、とても勝ち目が無い。
だが……
今ここで自分が死んだら、楓はどうなる?
冷たい水に頭を押し込まれながらも松之輔は、腕に渾身の力を込めた。
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