8人が本棚に入れています
本棚に追加
どちらかと言えば小柄で、顔立ちも、濃い眉と真一文字に引き結んだ口元に意志の強さと生真面目さがにじみ出ているのが取り柄と言えば取り柄という、さして風采の上がらぬ松之輔の姿を見て、「どうして久右衛門殿は、あんな男を――」などと、噂していた者達も多かった。
表向きには、剣の腕を見込まれて、ということになっている。
それも、事実ではあった。
しかし、松之輔が口を開くと皆一様に「あっ」という顔をした。
昨年不慮の死を遂げた、鶴見久右衛門の息、萬之助と、「声だけを聞けば、まさに瓜二つ――」であると言う。
松之輔自身は、生前の萬之助を知らないが、はじめて松之輔の声を聞いた者達の反応を見るに、確かに相当似ていたのだろう。
それゆえに、口さがの無い者たちは、松之輔のことを、「声一つで、鶴見家の婿養子の座を射止めた男」だなどと、評しているようだ。
確かに、そうなのかもしれないと、松之輔自身思わないでも、無い……
松之輔は、供の者には聞こえぬくらいに小さく、ため息をついた。
四人もの供を引き連れて歩くのにも、いまだ慣れない。
本来ならば、実家の桐谷家とて三百石の旗本なのだから、当主ともなればその程度の供揃えは当然のことなのだが、代々無役の小普請だから家計は火の車だし、そのように威儀を正して外出しなければならないことなど、年に数えるほどもなく、先年身罷った父も、現在の当主である年の離れた兄も、せいぜい中間一人か、あるいは必要があれば松之輔が供侍の役をした。
そんな次男の松之輔に、供など付いたことはない。
着慣れぬちんちくりんな裃姿の自分が、槍持ちだの挟み箱持ちだのを従えて歩く姿など、まるで仮装行列だ――というような気になるのである。
最初のコメントを投稿しよう!