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昨年の夏、江戸を震撼させた辻斬りの手にかかり、楓の両親は相次いで命を落としている。
はじめに、母親の梢が惨殺され、「何としてもこの手で妻の敵を――」と、探索に奔走していた父、萬之助は、件の辻斬りと死闘の末、自らも命を落としてしまった。
元々心の臓に病を抱えていた久右衛門も、心労が祟ってすっかり体調を崩し、一刻も早くしっかりとした跡継ぎを定めなければ家が立ちゆかぬということで、まだ幼い孫娘の楓に婿を取らざるを得ないことになったのである。
楓はすっかりその気で元気いっぱいに振舞い、奉公人たちには、
「わたしのことは、おくさまと、およびなさい」
などと大威張りで、なんだかんだとたどたどしくも「おくさま」を演じようとするが、おそらくそれらは生前の母が父にしていたことを見覚えていて、そっくり真似をしようとしているのだろう。
悲しい、ままごとなのだ。
だから、それに付き合うのは、やぶさかでは無い。
気難しげに見える顔立ちで口も上手くはないため、なかなか子どもは懐かないが、松之輔自身は、子どもは好きな方だ。
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