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しかし、まだ若い松之輔が、幼い許嫁と、このように諾々とままごとのような日を送り暮らしていること自体も、口さがの無い者達にとっては恰好の噂の種であるらしく、
「あんなご面相で、源氏気取りか?」
揶揄する者あり、
「いつまでも持つものか。あのくそ真面目ったらしい化けの皮を脱いで、女遊びを始めるのはいつ頃であろうな」
賭けをはじめる者あり、
「いや、俺が聞いたところによるとあの男、六つの娘を毎夜寝床に引き入れて、共寝をしているらしい――」
「さ、さような趣味か?!」
「いやいや、これは確かな筋から聞いたのだが、女にはまるで興味の無い男だとか」
「と言うと……?」
「本所の屋敷におった時分には、いつも御神酒徳利みたいに番って歩いている男がいてな、それが、ちっとばかり好い男だという……」
「そっちか!」
「剣術をやる奴には、そういうのが多いらしいな。よく分からんが、女と交わると己も女々しくなる――と、いうことらしい」
「へへぇ……」
――などと言いたい放題、それも、陰に回って言うのだから如何ともし難い。もっとも、面と向かって言われたとしても、うまくかわせるような口はないのだから、同じことだが。
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