3 長澤瑠璃

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 2度目は、それから半月ほど後だったと思う。  相変わらず隙をみては呑み歩いていた私は、その日も行きつけのバーのひとつに足を踏み入れた。先払いで手に入れたジントニックとピザを片手に振り返ると、左手奥のスツールに安倍川さんの姿を見つけた。いつも洒落た髭にデザイン性の高い眼鏡やハット、ジャケットを纏う彼の人は、混みあった店内でもよく目立った。ちゃんとお詫びだけはしておこうと、迷いなく近寄った。 「安倍川さん」  近寄って気がついた。向かいの席に、あの時の彼がいた。 「この間は、勝手にお邪魔してすみませんでした」  深々と、頭を下げる。 「お隣の人もごめんなさい。吃驚したよね」  またしても闖入者になってしまったけれど、いい機会だとモデルの彼にも謝罪する。 「ああ、あの時の……」 「こっそり覗いてたの、私なの」 「もう、モチさんには言っといたよ。勝手に他の子入れないでって」 「ごめんなさい、すごく綺麗な人が撮影してるって言われたから、ついつい見ちゃった」  その「すごく綺麗な人」の前には、テーブルから溢れんばかりにフードが盛られていた。美貌に不釣り合いなほどの量に思わず見入ってしまう。 「……やらんぞ」 「え」 「俺のバイト代だ」  ようやく、食べ物のことを言っているのだと合点がいった。 「大丈夫、私呑むのが専門だから」  これで充分と、自分のピザを掲げてみせた。それで彼の敵意は溶けたようで、「座れば」と隣の席を勧めてきた。邪魔じゃないかと、安倍川さんに目線で確認する。肩を竦めたところをみると、この場の主導権は安倍川さんにはないようだ。それならばと、そのまま席につく。 「良かったら、お詫びに何か奢ろうか?」  たっぷりとローストビーフの挟まったクラブハウスサンドを頬張る彼に、話を振った。美形は大口開けても美形なんだと、おかしなことに感心する。口の中の食べ物を丁寧に咀嚼すると、彼は「これ食ったら考える」と厳かに宣った。
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