題6話 予兆

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 今日、熊との決闘を終え、先に帰宅していた私は、興奮が冷めきれないまま部屋のベットでうつ伏せになり漫画を開き鼻歌を歌い眺めていた。19時が過ぎ、空腹と共に興奮が冷めてきた頃、不と私の背中に衝撃が走った。突然、降り注いできた鈍器のような拳とベットの間にいた私は、その一発で腹から鈍いうめき声しか吐き出せず、それ以上の物はでなった。 恵「・・・しゅ,手刀打ち。」 詩織「何が言いたいか分かる?」  背中の痛みが抜けないまま、苦痛な顔でなんとか上体を仰向けに起こすと、鋭い視線を飛ばし、肩幅まで上げた拳を見せつけてくる母がいた。  それにしても、玄関のドアを開ける前から足音を立てずに私の部屋まで来る母が、蛇が格闘技を身に着けた、超生物に思えてしまう。私は背中を軽くさすりながらベットに腰を掛け、母の顔を直視できずにいた。 恵「・・・熊の件ですかね?」 詩織「分かってるなら結構。」  思わず敬語になる私だが、母は表情も声も変わらず、私の恐怖心が増すばかりだった。そんな私は今にも泣きそうになり、潤んだ瞳で俯き加減になっていく。 詩織「母さんはね、心配なんだよ、恵の事が。」 恵「えっ、そうなの。」  母の不意な愛情の言葉に、涙が溢れかけ右手で拭いながら、私は、自然と穏やかになっていた母の顔を見つめていた。母は私の頭を軽くなでると、途端に恥ずかしくなり、首を小刻みに振りやめてくれと訴えた。    
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