題6話 予兆

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 私が寝る前には、母は、ソファーで腕を組み、片足をはみ出しながら、心地よい眠りについていた。あんな体制でよく眠れるものだなと、少し感心してしまうが、それだけ疲労が溜まっていたんだろう。私の事もあったし、やはり罪悪感を感じてしまう。このまま寝室に運んだら起こしてしまいそうだし、運んでいく最中に、寝ぼけて拳が飛んでくるのも御免だ。  私は、仕方なく毛布を取りに、母の寝室に足を運んだ。母がソファーで寝てからの、この流れは、何年も前から続いている。そう思いながら母の散らかった寝室のベットから、雑な畳方をされた毛布を取り、疲れきっている母に、私は、毛布を優しく掛けた。  自室入りベットが視界に入ると、目蓋が重く閉じるような眠気が襲ってくる。私にも相当な疲労が溜まっていたんだろう。足元に散らばってる週刊誌など無意識に踏みつけながら、ガス切れ寸前の意識の中、上下の揃った猫柄のパジャマに袖を通す。お尻から力強くベットに座ると、きしむ音が聞こえ、疲れ切った、ため息とともに横になった。両足をベットからはみ出し、ぼんやりと視界が途切れていく。  寝る直前に目にしたのは、自室のベットの正面にある、ドアだった。それがいつの間にか、周囲一帯を見回すと、黒い霧のような物で覆われていた。その風景を目にした私は唖然とした顔で硬直してしまう。しかし硬直した状態の私の脳内で、ある名前がふと浮かび上がる。・・・クロイだ。  また会えるという好奇心が、五感があるかどうかも分からない私の体を、揺れ動かし、再び辺りを入念に見回し始めた。よくよく見ると、黒い霧が渦上にして一か所に集まっていたのが目に留まる。さらには、昨日と違い距離が近かったこと、もう一つが、赤眼のような目があった事だった。
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