題6話 予兆

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 あれはクロイなのか?私は思考を落ち着かせるために、目を瞑り、頭を下に向け、大きく深呼吸をする。心臓の鼓動が頭に響くのを感じる。昨夜の夢との違いに、やはり戸惑いを感じてしまう。 クロイ「・・・少し、あと少しだ。この世の悪を、我に、め・・・み。」  無音の周囲から突如、私の頭に直接、響く声に、思わず息を大きく飲み込み、力ずよく目を開く。その視界の先には、ぼんやりと映し出された、何の変哲もないドアがあった。呼吸や心臓の鼓動が徐々に落ち着きを取り戻すのを実感していくと、自室であることに気が付いた。 恵「またあの夢だよ、どうなってんのー。」     置いてある枕に顔を埋め、首を左右にぎこちなく振るう。    それにしてもあの夢って何だろう?私は枕に顔を埋めながら、10秒程、思い悩む。しかし、頭から捻り出せたのは、何かが響いてきたという、漠然な答えだけだった。自分の物覚えの悪さに苛立ちを感じ、片手で頭を掻き毟りながら、苛立ち混じりの溜息を出し、勢いよくベットから起き上がる。  憂鬱な暗い顔で、自室に投げ捨てて置かれてたカバンが視界に入り、学校に行く事を、忘れていた事に気付く。慌てて時計を確認したが、いつもより時間に余裕があることを知り一笑した。普段着の中に埋もれてる制服に手を突っ込み、勢いよく引きづりだし、学校に行く準備を始めた。  自室を出て、中央に置かれているテーブルに足を運び、あくびをしながら居間の辺りを軽く見渡した。母は既に出勤していて、外からスズメの鳴き声が、かすかに聞こえる。テーブルにカバンを置き、テレビを見ながら卵とご飯で、食事を済ませ、食器を手際良く片付けた。  ピピピッ、後ろのテーブルに置いていた、携帯が鳴り、私は駆け足で取りに行く。 (今、恵ちゃんの家の前まで来てるんだけど、来れる?) どうやら家の前まで霊ちゃんが迎えに来てくれたらしい。 (今いくよ。) 私は、頬を緩ませ、直ぐに送信した。 (今から10秒以内に、下まで降りてきたらジュース10本奢ってあげる。) 5秒も経たない内に、霊ちゃんからの悪ふざけなメールが届く。私はコップ一杯の牛乳を手にしながら、そのメールを確認すると、急いで牛乳を飲み干した。  今からどう頑張っても、2分はかかる。それでもわずかばかりの欲が、胃で揺れ動く、牛乳の不快な音を耳にし、顔を歪めながらも、私を突き動かしていた。  
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