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8 大展開(つづき)
「うん。美味しい、このジャガイモ」
えっ……?
しかし、どう見ても彼の箸の先に突き刺さっているのはサトイモ。
そして当人も、自分の間違いに気付いたらしい。
目を細めて痛そうな面持ちになり、溜息をつかんばかりの声で呟いた。
「あぁ、またやった……」
「えっ?」
思わず聞き返した真友子に、笠原はバツが悪そうに更に眉尻を下げた。
「実はこれ、子供の頃からの癖なんです」
曰く、このサトイモの煮っころがしを口にした瞬間、昔、彼の祖母が
ジャガイモもよくこんな風に煮てくれたことを思い出していた。
それで、つい巡っていた思い出が、そのまま言葉になって出てきてしまった
という。
「まったく、どうしてだか大人になっても治らなくて、お陰でその度に
家族にはいつも突っ込まれて。
それに、なんていうか、言い間違いとか、言葉を噛むとか本当に多いんです
よね、僕」
照れ臭そうに苦笑いを浮かべた笠原は、それを隠すように箸先のサトイモを
口へと放り込む。
その彼を前に、真友子の脳裏には、あの最初に出会った小雨の夜の事が
蘇った。
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