第2章 手を伸ばせば。

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「先生達、文化祭の焚き火を一緒に見た事あるでしょう。私、偶然 見かけて。『あぁ、あの2人 想いが通じてるんだな』って思って、密かに応援してたのよ。」 「なんで、1年待ってたの知ってるんですか?」 「高杉先生…1年って長いわね。先生にも長かったと思うけど、一瀬さんは かなり大変だった。実は一度 一瀬さんが 空き教室で泣いてるの見たの。」 「えっ?」 「あの年、教育実習で南さんって人が来たでしょ。あの人、高杉先生にご執心で。 高杉先生と南さんが付き合ってるっていう噂が流れたりして、ま、南さんが自分で流した噂かもしれないけどね。 そんな嫌な話が一瀬さんの耳にも入ったみたいなの。」 「南さんとは、もちろん何でもなかったんですけど、そんな事があったんですか…。」 凪…一言も言わなかった。 「保健室で話聞いて。1年間付き合うの待つ事になってるって事も その時聞いたの。口止めされてたから、今まで誰にも言わなかったけどね。」 その口の硬さが、生徒たちの信頼の元なんだな…。 「大人の1年よりも、高校生の1年は 長いからね。高杉先生も酷な事するなって思ったりもして、一瀬さんには 何かあったら いつでも話を聞くって言ったの」 「何回か話聞いた事もあったけど、話す一瀬さんから、高杉先生への思いが溢れてて…。高杉先生、一瀬さん、大事にしないとダメよ~!」 「もちろん、大事にしますよ。」 「…ウチの生徒にしても、他の学校の生徒にしても 援助交際してる子にも 大切にしたい人と、大切にしてくれる人がいれば、そんな世界から抜け出せるのにね…。」 「…はい。」 「何かあったら、話にきてね。援助交際の事でも、凪さんの事でも、先生自身の事でも。」 「はい…ありがとうございます。」 保健室を出ると、夕方になっていて 思ったより時間が過ぎている事が分かった。 思いがけず、凪の話を聞いて…無性に声が聞きたくなった。
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