第3章 伸ばした手が 触れ合った時

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「おーい!こっち!」 居酒屋の戸を開けると、酒や料理、タバコの匂いが押し寄せてきて ぐるりと見渡して連れを探していると、あっちから見つけて 声をかけてきた。 「お、弓原!」 学会で久しぶりに都内に出てきた弓原と飲む約束は、すぐに決まり いつもの居酒屋で待ち合わせた。 「お前、スーツってイメージじゃなかったから分からなかったよ。すまん、遅くなった。」 近寄ってきた店員に 生ビールを頼み、おしぼりで手を拭く。 「そんなに待ってない。料理は適当に頼んどいた。唐揚げとか。」 中学からの友達は こっちの好みまで知り尽くしていて 楽ちん。 届いたビールで、乾杯。 「功輔、可愛い彼女とは、うまくいってるのか?」 「うん。」 「今日、連れてくるかと思った。」 「凪、まだ未成年だから飲み屋には連れて来られない。会いたがってたけどね」 「未成年って事は、Hな我慢大会まだやってるの?」 「やってる…っていうか、その卑猥な言い方やめろ」 「でも…さ、どうしようもなくしたくなる時ないの?」 「…。」 「あるんだな?」 「…前に 向こうに煽られて 、理性が吹っ飛びそうになった。」 「…なんだか凄いな。若紫。」 「若紫?」 「お前達、光源氏と若紫みたいだから。理性なんて吹っ飛ばしちゃえば良かったのに。」 「…。」 「吹っ飛ばしそうになったって事は、しなかったんだ?」 「凪、怯えてたから。いざHする時は なるだけ優しくしたいって思ってるからさ」 「ま、するとなれば 少なからず辛い思いさせる事になると思うけどね」 「そうだよな~。」 「そんな深刻に考えんなよ。辛くてもいいって思うと思うよ、凪ちゃんは。って言うか、功輔変わったな~。今まで付き合った女に そんなに気を使ってたか?」 「使ってなかった…。凪は特別なんだよ…。」 「やっぱ凄いわ、凪ちゃん…。」 「まぁね。…そういえば、お前が前に言ってた事 当たってた。」 「え? 俺 何言ったっけ?」 「凪のそばに、同世代の男が現れたらって話。」 「浮気か?」 「違う。バイトの先輩。」 「…。」 「凪は、気づいてないみたいだけど、 向こうは凪に好意を持ってる。たぶん。」
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