白の殉教

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白の殉教

 ある国に、『白き癒し手』と呼ばれる聖職者がいた。  全身を覆い隠す絹のローブに身を包み、フードと覆面で隠された素顔は誰も見たことがなく、見ることも許されていない。  癒し手はその呼び名の通り、癒しの術を神より授かっていた。  その御手が触れれば、どんな怪我も病気もたちどころに癒える。それは神の御業としか言い表せぬ奇跡だった。  救いを求める者を癒し手は拒まなかった。富を持つ者、貧しき者、善人も悪人も癒し手の前では平等であった。  国は癒し手を称え、特別に建てた白亜の神殿に住まわせることにした。  神殿にやってくる人々は後を絶たず、国は栄えた。しかしそれ故に混沌も訪れ、秩序もまた必要になった。  やがて一つの法が定められた。この国で罪を犯した者は、背中に烙印を押されて追放される。二度と国に足を踏み入れることが赦されないというものである。  癒しを受けらないことは、民にとっては死も同義であった。民は罪を恐れ、一定の秩序が保たれるようになった。  それでも、罪人が完全にいなくなったわけではなかった。     
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