サンタクロースをあきらめた夜

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「仕事に行ってきまーす。いい子に寝て待ってるのよ」  けしょうしてキンキラのピアスとネックレスをつけて、きれいな女の人になった母さんが小声でおれにそう言って、家を出ていく。夜の8じ。子どもはもうねる時間だ。ふとんの中で丸まりながら考えた―――大人にとってはどんな時間なんだろう。  きのう、学校で友達のるみちゃんに「『つよしくんのママが男とドーハンしてあそんでるのを見た』って、パパがママに話してるの聞いちゃった」って言われた。母さんは「お金が必要だから仕事に行く」って言うけど、男の人と「ドーハン」っていうあそびをすることが仕事で、それでお金をもらってるってこと?  けど友達の母さんはみんな、いつも昼に仕事に行って、夜には帰ってきてる。ちがう友達の母さんは昼も夜も仕事に行かないで、ずうっと家にいて、仕事は「お父さん」がするんだ。うちはお父さんがいなくて、お金もないから、母さんが夜に出てかなきゃいけないのかな。  男の人とあそぶだけでお金をもらえるなら、おれにもできると思う。子どもはねる時間だけど、おれはもう小学2年生であと少しすれば中学年なんだから、もう子どもじゃない。そうじもせんたくも、りょうりだってそこそこできる。かいものもまかされるようになってきた。きっとリッパな大人だ。  だから今日、おれは「いい子で待つ」ことをやめる。母さんを追いかけて、おれもドーハンの仕事をするんだ。それでお金をもらえたら、母さんは夜に家にいてくれるようになって、おれたちといっしょにねて、起きてくれるかも。  同じふとんでねむっている妹を起こさないように、そうっと出る。まっくらやみのなか、明日学校に着ていくための服をパジャマの上からむりやり着た。きついしあつい。  リュックにはペットボトルとハンカチ、ティッシュ、かいちゅうでんとう、ばんそうこう、ノートにえんぴつ、セーターとマフラーとてぶくろ、ちょきん100円をつめこんで、ジャケットの上からしょった。今日はホワイトクリスマスで、うんとさむい日だってテレビでいってたけど、これだけあれば何があってもだいじょうぶなはず。  るみちゃんは「パパがつよしくんのママを見たのは『カブキチョー』ってとこだって!」っておしえてくれた。おれも「カブキチョー」に行ってみよう。歩いてどのくらいかな。おまわりさんならしってるだろうから、きいてみよう。
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