サンタクロースをあきらめた夜

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 わくわくしながらくつをはいていたら、後ろでもぞもぞと音がした。まずい、気付かれちゃったかも。 「おにいちゃん、どこいくの」  ああ。ゆうが起きちゃった。ゆうはまだ小学1年生の子どもだから、ねてなきゃ。   「おれも仕事に行くから、ゆうはひとりでねてろ。な?」 「いいこでまっててね、っていつもママが」 「おれはもう子どもじゃないからいいんだよ」 「だめだよ、おにいちゃん。いいこでまってないと、サンタさんこなくなっちゃうよ」 「いいよこなくて」  くつのひもをしっかりむすんで立ち上がる。つかんだドアノブが思った以上にひんやりしてて、ちびりそうになった。あったかいふとんにもどりたいけど、もどってもしかたない。どうせサンタクロースはプレゼントなんてくれやしないんだから。  去年のクリスマス、おれは「ニンテンドースイッチとゲームソフトがほしいです」ってサンタクロースにおねがいしたのに、もらえたのはおやつが入ったくつしただけだった。  ゆうもそうだった。「ぷりきゅあのへんしんぐっず」がほしかったのに、とどいたのはおやつ入りのくつしただったから、大泣きだったんだ。おれもたくさん、母さんをせめた。母さんが、ちゃんとサンタクロースに手紙をとどけてくれなかったせいだって。  母さんは「ごめんね、お母さんがいけなかったね」ってあやまってくれた。なきそうだった。そんな母さんを見てたら、思ったんだ―――もしかしたら母さんはサンタクロースに手紙をわたしてくれたのに、おれたちがわるい子で、サンタクロースがプレゼントをくれなかったから、それをごまかすために、母さんがおやつをこっそりおいたのかもしれないって。  いつの間におれたちはわるい子になってたのかわからない。母さんが「今年はちゃんと、2人がほしいものをくれるようにサンタさんにお願いしておくから、ほしいプレゼントをカードに書いておいて」って言うから、すごくまよって、けさ書いてわたしたけど、おれたちはどうやったらいい子になれるのかしらないんだから、きっとまだわるい子のままだ。  だからここでじっといい子に待ってたってサンタクロースはこない。母さんが帰ってくることだってあるはずないんだ。
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