プロローグ

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抑制剤(ピル)は飲んでいるのに、湧き上がる性欲に抗いきれず、何度も布団を敷き直した。 今日はもうしない、と決めても、またすぐに熱が襲ってくる。堪えていても次第に身体が快感への渇望にいうことを聞かなくなり、脳が自堕落に侵されてしまう。 (触ってキモチイイところがあるのに、どうして我慢しなきゃいけない…… ?) そう思ってしまったら、もう自制はきかない。 発情期の性欲の前には、矜恃や尊厳など脆くも崩れ去ってしまうのだ。 欲を吐き出した身体をぐったりと横たえる。 これで最後だ、今日はもうしない。 そう決心して手繰り寄せたティッシュで左手を拭う。 (今月、重いな…… 。) 憂鬱な気分が、そのままため息になって吐き出された。 普段は抑制剤(ピル)さえ服用していれば、日常生活を送れるくらいには自制していられる。 毎月の発情期とつきあって20年ほど経つが、年に一度の頻度で薬で抑えられない強い発情の波に襲われる。 自分が辛いだけではなく、ダダ漏れになるフェロモンで周りにも影響が出る。 「迷惑なので、帰ってください。」 不浄なものを見る目で見下ろし、自分を職場から蹴り出した上司の顔を思い出し、奥歯を噛み締めた。 (αのエリートさまに何がわかる…… っ!) つらい身体を引きずるように、電車に揺られて出社したというのに。     
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