7789人が本棚に入れています
本棚に追加
/450ページ
「う…… ぐ…… っ」
津田が低くうなる。突き出た肩甲骨の間に、脂汗が浮いている。ギリ、と、食いしばった歯の軋む音がした。
額を床に押し付けるようにして痛みに耐える津田の横顔は、発情期だというのに紙のように白い。
恐る恐る名前を呼ぶと、津田は涙目を細めて、薄く微笑んだ。
どうして笑ってくれるんだろう、こんな状況で。
酷い痛みに、全身を震わせながら……
津田の優しさに胸が痛み、乾はただ、謝ることしかできなかった。
「みんな、こうなんだろ?」
苦しい息の下からそう問われ、言葉を失う。
津田の首に押し当てたのは、綿のシャツだ。その白い生地が、みるみる赤く染まっていく。
血が止まらない。
乾には、この出血が普通じゃないことは分かっていた。
妻の時は。彼女の白いうなじに自分の歯型がはっきり見えた。血は滲んでいた。それでも、流れ出るほどではなかった。
この出血で、大丈夫なわけがない。
止血を、と思うが、これ以上強く傷を押さえられない。手足ならともかく、患部以外に圧迫するところもない。心臓より高くさせようにも、下手に身体を動かしたらもっと出血させてしまいそうだ。
思案する間にも、シャツに血が染みていく。
その時、津田の中に入ったままの乾の性器が、痙攣とともに精を放った。
そのわずかな衝撃にも、津田は眉根を寄せて身体を硬直させている。
抜きたい。抜いてあげたい、と思う。しかし亀頭球の膨張は最後の一滴までをΩの胎内に注ぎ込むまで治まらず、無理に抜くと傷つけてしまいそうだ。
とはいえこのまま血が止まらないようなら、20分以上もただ首を押さえているわけにはいかない。
体重をかけないようにするのも限界がある。
どうしたら、津田の身体の負担を軽減できるだろうか。
対応を迷った乾が再び顔を覗き込むと、津田の虹彩が上辺を虚ろに揺れている。
声をかけようと息を吸い込んだ時、独り言のように眠気を訴えた彼に、背筋が凍りついた。
長い睫毛が、ゆっくりと眼球に幕を下ろしていく。
「津田さん…… っ!!」
小さな謝罪の言葉を残して意識を失った津田は、どんなに呼んでもそのまま、目を覚まさなかった。
最初のコメントを投稿しよう!