午後の雨音

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「いらっしゃいませー。」 希が声だけで対応しようとするが、どうやら入り口で動かないらしい。 「あれ、空いてるとこ、お好きに座ってくださいね。」 希が再度声を掛けてみると、男は落ち着かない様子で口を開いた。 「あの…、今日この写真の女性、客として来ませんでしたか?」 希が再度声を掛けてみると、男は懐から一枚の写真を取り出し、落ち着かない様子で口を開いた 「この写真の、って言われても…。良く見せてもらって良いですか?」 希はそういいながらも、私にも来るよう手招きをしてみせる。 「マスターは見憶えあります?」 ――この辺ではあまり見ない客だったので、ハッキリと覚えている。 つばの大きな帽子をかぶり、何とも物憂いな表情で窓の外を眺めながら、のんびりとパスタを食べていたのは良いが、夕飯用にサンドイッチを包めないか聞いてきたので、慌ててなにか丁度よい包材がないか探したのは、まだ記憶に新しい。 「そうですか…。ありがとうございました…。」 そう言ってそのまま、男は店を出ようと入り口のドアノブに手を掛けたが、しばらくすると向きを変え、奥の席に着いてコーヒーを頼んだ。 「温かい方で良いですか?あと、これ。写真。忘れて行っちゃうトコでしたね。」 希が男のテーブルに写真を置いて、苦笑いをしてみせると、ソレにつられたのか、男もやっと少し笑ってみせる。 「あー…。スミマセン。はい、温かいのでお願いします。」 「だそうでーす。マスター、ホットコーヒー1つー。」 だそうでーす。って…。 何ともいい加減というか、多少の手抜き間が否めないが…。 まぁこの場は問題なく伝わったから良いだろう。 「あ、どうも。」 男の座った卓に、コーヒーを運ばせる。 最近はサマになってきた気もするが、まだ覚えてもらうべきは多そうだな。 どんな客に対しても明るく振る舞えるのは、確かに良いことなのだが… 「人探し?何で探してるの?何となく気になっちゃったじゃない。」 「いや、えーっと。…なんて言うのかな。」 どうやら希はこの男に興味を持ったらしい。 「ほらほら。今日は早目に帰るって言い出したの、君のほうじゃありませんか。片付かないと帰れませんよ?」 「はーい。」 客の邪魔をしないようにと、釘を刺してはみるが…、これはどうも聞きそうにない。 そんな心配をよそに、男の方も希にゆっくりと口を開いている。
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