0人が本棚に入れています
本棚に追加
豊かな木の匂いをまとったぼくは、、とても筋肉質な男の人に抱えられて、今日7月27日に海ちゃんという子の家へと運ばれてきた。とても風通しの良い、ぼくにとっては好都合な縁側に配置された。
海ちゃんは当時小学三年生だった。それから、海ちゃんは、ぼくの88鍵の鍵盤をひとつひとつ選びぬいては、美しいハーモニーを奏でてくれた。たまには、水色のクリーナーで、ぼくにかかった埃を大切に、拭き取ってくれた。
ある日、海ちゃんが、幼なじみの男の子を連れてきた。
ふたりは縁側でお菓子を食べたり、ぼくに触ったりして遊んでいた。
「ピアノあるっていいなあ。」
「いつでもうちに来ていいよ。」
「うん!」
そうして、幼なじみの子はよく遊びに来るようになった。ぼくは、とても微笑ましかった。なんだかぼくまで嬉しくなった。
でも、そんな楽しい時間も長くは続かなかった。ぼくは、海ちゃんが小学六年生になってから、様子がおかしいと感じるようになった。どうやら、海ちゃんはとてもレベルの高いピアノコンクールに出るようだ。1日のなかで、ぼくと一緒にいる時間が増えた。でも、海ちゃんは、無理をしているようだった。一人で泣いたりもしていた。ぼくは、なぐさめてあげることさえ出来なかった。
最初のコメントを投稿しよう!