0人が本棚に入れています
本棚に追加
◆◇◇◆
「── ここからは君だけで進んで」
急に案内屋は立ち止まる。それで私は正面を向く。
目の前は薄暗くて、夢の中だと分かっていても一人で歩くのには少し抵抗がある。目の前には何も見えない。
「え、でも……」
口ごもりながら、戸惑った目で彼女を見つめる。また予想外のことを言われるんじゃないかと少し後悔した。
が、彼女の言葉は、その予想を逆の意味で上回った。
「大丈夫、怖いものはないよ。この道を真っ直ぐ行った先にあるドアの中へ入るだけ。 あとは、『みんな』が教えてくれる」
夢の中の暗闇って現実のよりも暗くて怖い。
でも彼女の声と笑顔は、そんな暗闇に灯るランプのように優しくて明るかった。
さっきは関わりたくないと思ってしまったが、性根はいい人なのだろうか。
彼女の手を握る力が強くなる。本当は離したくない。
離したら、一人になってしまう。
でも、前に進まなきゃ。
夢が覚めちゃう。
心を落ち着けて、一回深呼吸をしたら、離す決心がついた。
「わかった、ありがとう。えっと……」
「ん? 僕は案内屋だよ」
「そう。 ……ありがとう、案内屋」
私は、彼女から手を離した瞬間走り出した。
その温もりが消えぬ内に、話にあった扉へと辿り着くために。
後ろから案内屋が「またねー!!」と大声で言ってきたが、振り返らず走り続けた。
彼女はきっと、後ろで大きく手を振りながら笑顔でいるのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!