キシ

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キシ

「こんな所で立ち話も何ですし、ちょっと案内したい所があるんで、そこでどうでしょう?」 「良いわよ。歩きながら、話しましょう」  そうして二人で歩き出した。 「久し振りね」 「そうですね。あなたと会えない間、もう気が狂うかと思いましたよ」 「あっそ」  コイツはいっつもこんな調子なので、アタシはまともに相手をしなかった。  そう、一ヶ月前までは…。 「あっ、危ないですよ」  肩を捕まれ、引き寄せられる。  考えをしていたせいで、前から来た若いカップルにぶつかりそうになっていた。 「…ありがと」 「いえいえ」  けれどキシはアタシの肩を掴んだまま、歩く。  アタシは振りほどかないまま、歩く。 「…アタシと会わない間、何してたの?」 「気になります?」 「ええ、イヤな方向に」 「別に浮気なんてしてませんから、安心してください。あなた以外の人間なんて、物と変わらないんですから」  幸せそうに微笑み、アタシを抱き締める。  …こんなヤツを野放しにしていた責任は、やっぱりアタシにあるんだろうな。  思わずニンニク臭いため息を吐いた。
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