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――何時間歩いたのだろう、おかげで佐伯さんともすっかり打ち解けられた。変わらないのは白い風景、俺たちは学生が下校する時のように詰まらない話で盛り上がりながら歩いていた。
「へー、誠吾君は社会人一年生なんだね、彼女はいるの?」
彼女......そう言われて思い出した。俺には付き合っていた彼女がいる。そして別れたかったことも......
「あー、深鈴っていう別れてくれないのがいます」
その理由は思い出せないが、それが俺の負担になっていたことは覚えている。
苦虫を噛みつぶしたような顔で舌打ちをする。
「そんなに合わなかったの? その彼女」
「え? まぁ......よく覚えてないんですが、恐らく」
「罪な男ね、泣いたでしょ? その娘」
「恐らく......」
佐伯さんは髪をかきあげてため息をついた。俺は暗くなりそうな空気を、変える為、引きつった笑顔で話題を変えた。
「そ、そうだ、佐伯さんの職業は?」
「私? 私は先生、高校の教師よ」
「先生ですか! そういえば学生時代は先生に迷惑ばかりかけてたなぁー」
突如思い出した思い出に、腕を組み目を瞑る。
「男子校だから生意気な生徒によくイジメられるよー、スリーサイズ聞かれたり、パンツ見せろとか言われたり」
「あ、それ俺も見たい」
「こらっ!」
佐伯さんが軽く振り上げる拳に、二人の笑い声が響く――
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